
不妊治療を開始してタイミング法を続けたのちのステップアップの一つとして「人工授精」という選択肢があります。人工授精という言葉に少し緊張や抵抗を感じる人も多いかもしれません。この記事では人工授精について、これから不妊治療を始める方にも分かりやすくお伝えしていきます。鍼灸師として東洋医学の視点も交えながらご説明します。
人工授精とはどんな治療?
人工授精(AIH)は、ご主人やパートナーの精子を採取し、それを子宮の中に直接入れる方法です。自然に妊娠しやすい環境を整える手助けをする治療法といえます。体外受精ほど準備が必要なく、精子の洗浄に1時間弱時間が必要ですが処置自体は内診室で10分ほどで終わります。
人工授精の基本的な流れ
- 排卵日を知る: 排卵検査薬や病院での超音波検査での卵胞チェックで排卵日を予測します
- 精液を採取する: パートナーに精液を採取してもらいます
- 精液を元気な状態に整える: 医療機関で運動性の良い精子を選び出し、濃縮します(処理時間は約30分~1時間)
- 子宮の中へ: 細い管を使って、元気な精子を子宮内へ優しく届けます
- 少しの休息: 処置後は15〜30分ほど横になって休みます
痛みはほとんどなく、10分程度で終わる外来での処置です。生理痛程度の軽い痛みを感じる方もいらっしゃいますが、心配するほどではありません。
人工受精後のトイレやシャワーは心配しなくても大丈夫です
人工授精までの一般的なスケジュール
人工授精は、排卵のタイミングに合わせて行うことが大切です。一般的なスケジュールは以下の通りです:
- 採取から授精まで: 精子を採取してから2~3時間以内に病院に持っていく必要があります。精子は熱や寒さに弱いので持ち運ぶ際の温度は注意が必要です
- 排卵日の特定: 人工授精は排卵日または排卵予定日の24時間前後に行うのが一般的です。
- LHサージから授精まで: 排卵検査薬でLHサージ(排卵を促すホルモンの急上昇)が検出されてから約24~36時間後が人工授精の最適なタイミングと言われています。
- 通院のタイミング: 月経開始から約10~14日目(28日周期の場合)に人工授精を行うことが多いですが、個人の排卵周期に合わせて調整します。
東洋医学では、月経周期を「気血」の流れとして捉え、周期に合わせた身体の変化を大切にします。月経がはじまって3~5日の間は卵胞が成長を始める期間で多くの栄養を必要と必要とする時期です。この期間の鍼灸は卵巣に栄養を運ぶための血流を増やす役割があります。
タイミング法との違いは?どんな良さがあるの?
タイミング法と人工授精の違い
- タイミング法: 排卵日に合わせて自然な営みを行う方法です
- 人工授精: 医療機関で精子を調整して、子宮内に直接届ける方法です
人工授精の良いところ
- 元気な精子だけを集める: 精子の状態が整えられ、質が良くなります 一定の割合で奇形精子が存在します それを取り除くことで受精の確率が高くなります
- 子宮まで直接届く: 子宮頸管(子宮の入口)の粘液という関門を通る必要がありません
- 最適なタイミングで: 排卵日に正確に合わせられます HCGの注射をすることで排卵時間をより正確にすることができるのがタイミング法との大きな違いです。
- 何度かチャンスがある: 毎周期試せるので、自然妊娠よりもチャンスが増えます
こんな方に人工授精が向いています
次のような状況にある方は、人工授精が良い選択肢になるかもしれません:
- 精子の状態に少し課題がある: 数が少なめだったり、動きが少し弱かったりする場合
- 検査では特に問題が見つからない: いわゆる「原因不明不妊」といわれる場合
- 子宮頸管の粘液に特徴がある: 粘液が精子の通過を妨げているかもしれない場合
- タイミング法が難しい: 様々な理由でタイミング法での妊娠が難しい場合
- 子宮内膜症がある: 軽度から中程度の子宮内膜症をお持ちの場合
東洋医学的には、気・血・水のバランスが整っている方が妊娠しやすいと考えられています。鍼灸治療と組み合わせることで、身体の環境を整えながら人工授精に臨むことも可能です。
妊娠できる確率はどのくらい?
人工授精で妊娠できる確率は人それぞれ異なりますが、一般的な目安をお伝えします。
全体の妊娠率
1回の人工授精での妊娠率は約5〜15%と言われています。6回程度の治療を続けると、全体として30〜40%の方が妊娠されるという統計があります。
年齢別の妊娠率
女性の年齢は妊娠率に影響します:
年齢 | 1回あたりの妊娠率 |
---|---|
35歳未満 | 約10〜15% |
35〜37歳 | 約8〜12% |
38〜40歳 | 約5〜10% |
41〜42歳 | 約3〜5% |
43歳以上 | 約1〜3% |
※これらは平均的な数値です。個人差がありますので参考程度にお考えください。
回数を重ねると妊娠率は?
人工授精は何度か繰り返すことで妊娠の可能性が高まります:
治療回数 | おおよその妊娠率 |
---|---|
1回 | 約5〜15% |
3回 | 約20〜30% |
6回 | 約30〜40% |
7回以降は横ばいとなるので一般的には、6回ほど試みても妊娠に至らない場合は、体外受精などの次のステップを考えることが多いようです。
人工授精とあわせて自分できること
人工授精前にできること
- 基礎体温をつける: 自分の身体のリズムを知ることが大切です
- ビタミンDと葉酸を摂る: 流産予防や赤ちゃんの健やかな発育のために、早めからの摂取をおすすめします
- 生活を整える:
- ウォーキング適度の運動
- 旬の食材を取り入れた和食中心のバランスの良い食事
- 十分な睡眠時間の確保
- 心にゆとりを持つ時間を作る
- タバコをやめる、お酒は量に注意
- 鍼灸治療を取り入れる: 気血の流れを整え、子宮への血流を良くする効果が期待できます
人工受精後に受精・着床するのは何日後?
人工授精後、精子と卵子の出会い(受精)から着床までの大切な時間について知っておきましょう:
- 受精のタイミング: 人工授精後、元気な精子は6~24時間ほど卵子を待ち続けることができます。卵子は排卵後約24時間生存可能です。このタイミングが合うと受精が起こります。
- 受精卵の移動: 受精した卵子(受精卵)は、卵管を通って子宮へと移動します。約3~4日かかります。
- 着床の時期: 人工授精から約6~10日後に着床が起こります。これは排卵から約7~12日目、または次の生理予定日の約7日前に相当します。
- 着床のサイン: 着床時に少量の出血(茶オリと言われる着床出血)が起こることがあります。ただし、多くの方は特に自覚症状がないため、心配しないでください。
- 妊娠検査のタイミング: 着床から約3~4日後には妊娠ホルモン(hCG)が分泌され始めます。人工授精から約14日後に妊娠検査が可能になります。
東洋医学では、着床期は「腎」と「脾」のエネルギーが大切だと考えられています。暖かく栄養のある食事と心身の安定が着床を助けるとされています。
人工授精後のケア
- 優しく過ごす: 激しい運動や重い物を持つことは避けましょう
- 身体を温かく: 特にお腹と足先を冷やさないよう気をつけましょう
- リラックスする: 心地よい音楽や香り、読書など自分なりのリラックス法を見つけましょう
- お薬をきちんと: 医師から黄体ホルモンのお薬が出ていれば、指示通りに飲みましょう
- 適切な時期に妊娠検査: 病院の指示に従って妊娠検査を行いましょう 人工受精1週間後はまだフライング時期です 多くの病院では判定日はを2週間後に設定しています
鍼灸治療では、人工授精後の着床をサポートする施術も可能です。
パートナーと一緒に~男性の元気な精子づくりのために
お二人で協力して取り組むことで、より良い結果が期待できます:
- 生活習慣を見直す:
- 禁煙を心がける
- お酒は適量に
- 適度な運動を取り入れる
- しっかり休息をとる
- 食事を工夫する:

- 亜鉛が豊富な食品(牡蠣、牛肉、豆類)
- 色とりどりの野菜や果物(抗酸化物質が豊富)
- 青魚(オメガ3脂肪酸)
- 緑黄色野菜(葉酸が豊富)
- 体温に気をつける:
- 精巣は熱に弱いので、長時間の熱い入浴やサウナは控えめに
- ゆったりとした下着の着用を
- サポートするサプリメント:
- 亜鉛
- コエンザイムQ10
- L-カルニチン
- セレン ※専門家に相談の上で摂取しましょう
- 心の余裕を持つ:
- 趣味や楽しみの時間を大切に
- お互いの気持ちを尊重し合う時間を持つ
東洋医学では、腎(じん)の元気が生殖能力に関わると考えます。男性も鍼灸治療で全身のバランスを整えることで、精子の質の向上が期待できることがあります。
おわりに~宝塚市ひろせはりきゅう院ではあなたの妊活を応援しています
人工授精は、赤ちゃんを授かるための一つの道です。「治療」という言葉に緊張せずに、ご自身の身体と心に寄り添いながら進めていくことが大切です。
成功への近道は、西洋医学の治療と東洋医学の知恵を上手に組み合わせること、そして何より心と身体のバランスを整えることかもしれません。お二人の気持ちに寄り添いながら、穏やかな気持ちで過ごせる時間を大切にしてください。
人工授精でご縁が結ばれなかった場合も、体外受精など次のステップもあります。一人で悩まず、専門家に相談しながら、ご夫婦やパートナーと共に歩んでいきましょう。
宝塚山本のひろせはりきゅう院は妊活・不妊治療のサポートをメインに鍼灸を行っています。体外受精に進む前に万全な体調で人工授精にトライしたいという方は是非たよってくださいね。